概要
ゴムは100年以上の歴史のある材料であるが、そのネットワーク構造と物性の関係は未解明である。本研究では、ゴム弾性と熱可塑性樹脂の性質を合わせもつ、図1に模式的に示したような熱可塑性エラストマー(TPE)を研究対象とする。既に多種多様なTPEが上市されているが、ゴム材料を代替できるTPE材料は見当たらず、真の意味で「タフ」なTPEを製造するための設計指針を提供することを本研究の目的とする。そのために、応力下にあるTPE材料を対象にその力学的な意味での動的ネットワークの役割を明らかにしていく。ナノ触診原子間力顕微鏡(AFM)(研究代表者グループ:中嶋)、放射光小角X線散乱(共同研究グループ(1):高原)を実験の軸とし、データ同化型粗視化シミュレーション(共同研究グループ(2):森田)によって実験結果を説明できる分子を「可視化」する。さらに機能として重要な、応力伝達を担う応力鎖ネットワークをトポロジー解析(共同研究グループ(3):下川)し、機能と構造の相関関係を明らかにする。さらには最適なトポロジー解析モデルを探索し、その逆問題を解くことで最適なネットワークとしてモデル化し、動的に構造形成する数理モデルを構築することで(共同研究グループ(4):小谷)、タフなTPEがもつべき構造の設計指針を確立する。本研究を実験とシミュレーションと数学を協奏させ、材料開発の現場で役に立つ物理モデルを構築する挑戦的な試みとする。最終的にはこの成果に基づき革新的な高性能TPE材料を実現する。
TPEは常温ではゴム弾性体としての挙動を取り、かつ高温で塑性変形をする熱可塑性の高分子材料である。そのために材料内にゴム弾性を示すソフトドメインと、塑性変形を防止し補強効果を付与するハードドメインを有する必要がある。図1のハードドメインは一種の物理架橋点であり、力学的刺激に対して完全にロバストではない。伸長や長時間緩和により変形・崩壊する現象が観測されている。またソフトドメインを構成する2種類の高分子鎖のうち、ブリッヂ鎖は応力鎖の一員となるが、ループ鎖は機能できない。NPO法人ナノ構造ポリマー研究協会傘下のTPE技術研究会でヒアリングをしてみると、材料としてみたTPE材料には耐熱性、耐クリープ性、耐疲労性など解決すべき問題が多く、その解決にはまず上記のような根本的問題を正確に把握することが重要であるとの認識に至った。
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図1 TPEにおける動的ネットワーク構造